第2回 使用量減少を乗り超える戦略的活動を展開しよう(2025.8月号)

エネルギー05

短期集中連載3回シリーズ「顧客減・使用量減・利益減の時代を勝ち抜くために」

~浴槽レス・コンロレスの世代が増加し使用量減を超えるために長期的な見通しと具体的な戦略による活動を展開しよう~

人口は減っても世帯数が増える中で使用量減少が大きな経営課題となる

 人口が減少する中で、世帯数は増加傾向にあることは、前号でもご紹介しました。かなり人口減少が激しい市町村でも世帯数は増加傾向にあります。
 例えば岩手県では、人口減少が25の市町村のすべてで、県全体では11万4000人減少しています。しかし人口が減少する中で、10市町村で世帯数は増加し、県全体では1万723世帯増加しています。
 自社の所在地の市町村で確認してください。
 私のうがった見方かもしれませんが、この世帯数の減少が少ないことが危機感の不足となっている気がするのは、私の思い過ごしでしょうか。

高齢者の1人暮らしと夫婦2人世帯が増加し、3世代同居は激減している

 では、世帯数が増加する中身は何かというと、65歳以上の高齢者が住む世帯を分析したのが下のグラフとなります。

 1986年からの約40年間に高齢者の1人世帯が13.1%から31.7%と2.4倍なり、夫婦2人の世帯も1.8倍に増加、1人暮らしと夫婦2人の世帯で全体の63.7%とほぼ3分の2を占めています。
 また、その逆で3世代同居は44.8%から7.9%と5分の1以下となっています。サザエさん一家のような3世代同居は、極めてまれな世帯となっているのが現状です。
 これらの数値を見ても、LPガス使用量が減少する傾向となっていることは数字で証明されてしまっています。

さらに入浴も浴槽に入らない人が確実に増加傾向にあり給湯量も減少へ

 また入浴習慣についても、最近の傾向として「2割がまったく浴槽に入らない」と、昨年12月21日の日経MJネットの記事に下の図のように掲載されていました。
 もちろん猛暑の夏場にシャワーだけの使用が多いことは確かですが、生活スタイルとして浴槽にまったく入らないという人が増加しているようです。
 その理由としては上の左のグラフのように、「浴槽の準備が面倒」「浴槽に入るのが面倒」「掃除が面倒」という面倒が理由であるのと同時に、「水道光熱費がもったいない」という節約志向の理由も2番目で40%以上あります。
 この傾向は、物価高騰の中でさらに節約志向が高まり使用量が減る傾向にあります。
 高齢者世帯では、浴槽に入浴する機会が減っているとの報道がテレビなどでも流されています。

賃貸集合住宅は「浴槽分の空間が増えるなら家賃は安くならなくて良い」が8%

 入浴の傾向と同時に、賃貸集合住宅では、浴槽のないシャワー設備だけの部屋が増えているようです。
 前述の浴槽に関する日経MJのデータでは「絶対に必要」は、全体の5割以下となっており、「家賃が安くならなくても良い」と8%の方が回答しています。
 浴槽のない賃貸住宅も、賃貸住宅の検索サイト「ライフルホームズ」の賃貸物件で「風呂なしでも安く住みたい」タグ付き物件の掲載数のデータでは、下のグラフのように、わずか3年間で右肩上がりになっており、全国で増加傾向にあります。

入浴習慣だけでなく若者の「コンロ離れ」も確実に増加傾向となっている

 さらに最近の傾向として、浴槽レスと同様に、若者のコンロ離れが進んでいることが、キューピー(株)の「えがおの食生活研究」のデータで示されています。(ここでのコンロとはガスコンロ、IHコンロ、電気コンロなどを指します)
 右のグラフは、2022年から2024年のコンロを設置していない人の推移を示しています。20代男性では、この2年間に何と18.4%から27.7%へ急に伸びています。ま
た、20代女性でも14.2%から20.3%へと大きく伸びており、30代の女性でも5%近い伸びとなっています。
 すべての世代においても同様に「コンロはない、設置していない」家庭が増加しているという、LPガス業界にとっては恐ろしいデータといえます。

 都市部に限らずコンビニやスーパーマーケットでは、総菜やお弁当の充実が図られ、同時に冷凍食品の充実も著しい状況であり、電子レンジによる調理も魚が焼けるグッズや、スパゲティを茹でる器具など、どんどんガス離れを促進する方向で進んでいます。
 この状況は、いずれ家庭の中心となる世代が、コンロを必要としていない時代に入りつつあることを示していると考えられます。

ライフスタイルの激変が世帯人員減少と同時にLPガス業界の未来に影を落とす

 前号で世帯人員の減少と高齢化が確実に進むことはお伝えしました。今号では、さらにLPガス業界の未来に暗い情報となりました。
 未来を担う世代が、浴槽レスとコンロレスのライフスタイルとなっています。まずは、大都市の賃貸住宅新築時やリフォーム時に新たな傾向として現れますが、そのあとの新築戸建て住宅やリフォーム時など、戸建て住宅でも一般化する可能性が高くなります。
 使用量の減少傾向が続く中で、この浴槽レス・コンロレスの流れは、止めることが困難な若い世代のライフスタイルなので、この傾向を理解した活動が必要です。

「環境の変化への適応」が進化論同様にLPガス業界に今こそ求められている

 進化論で有名なダーウィンの言葉に「生き残るのは強いものでも、賢いものでもなく、環境の変化に対応できるものである」(表現は多数あり)という言葉があります。「環境の変化への適応」がLPガス会社の生存の要件とすると、これから起こる変化は、前回も述べた世帯当たりの使用量の減少です。
 少子高齢化、単身世帯の増加などに加えて、浴槽レス・コンロレスのように、仮に浴槽・コンロがあっても使用しないライフスタイルの若者が増加することは、確実に使用量の減少につながり、前号で述べた以上に10年、20年後には厳しい経営となることが予測されます。
 この経営環境の大きな変化に対応できる会社とすることが勝ち残る条件です。考えられる活動として次の事項をあげますのでぜひ実行してください。

㎏当たりのコストやガス外粗利、平均使用量の長期的視野での計画立案を

環境変化に対応して勝ち残る その①

 これから環境変化を乗り越えるためには、現状の自社のコストを徹底して見直し、中長期的な目標を設定することです。以前から㎏当たりのコスト計算を提案しています。
 ㎏当たりのコスト計算は、弊社の創業時からご提案していますが、今こそ必要な考え方だと思っています。
 使い方や活用する手法の時代に適した見直しは必要ですが、自社の課題や改善するポイントを明確にして改善することができます。

 ① 1件当たりの経費
 ② 1件当たりガス外利益
 ③ 1件当たり年間販売量

 そして4番目として各項目の分母となる顧客件数です。顧客件数が減少すると、①の顧客1件当たりの経費は上昇します。また、②は顧客数の減少はガス外粗利の減少と連動すると考えられます。③は使用量の少ない顧客の減少であれば、平均使用量の増加となりますが、使用量の多い世帯が子どもたちの進学・就職などで夫婦2人となると、平均使用量の減少となります。

 今後のエネルギー間競争や同業間競争の激化と経費上昇の中で、コストを見直すことは必須要件です。

1件当たりの経費はバックオフィスDXと業務改革で徹底した効率化を図る

環境変化に対応して勝ち残る その②

 バックオフィスDXには、どの程度取り組んでいますか。以下のチェック項目を検討してみてください。

① 業務の効率化を図る中期的な目標や計画がある
② 入金は銀行振替以外にカード決済、バーコード決済に対応している
③ 現金を扱う集金業務は原則として廃止・禁止している
④ 請求明細は70%以上はWEB明細となっている
⑤ 未収の督促はSMSを活用して送信している
⑥ 日報はデジタル化し入力も現場で可能な仕組みとしている
⑦ 保安のアポイント取得にSMSやLINEを活用している
⑧ 販促活動や情報発信にLINEやSMSを活用している
⑨ 訪問する際にスマホで顧客データや履歴などが確認できる
⑩ 幹部・社員のスケジュールは全員で共有され可視化されている

 以上の10項目で5項目以上を実行または、導入予定ですか? LPWAの導入はもちろんですが、これらのバックオフィスDXは、喫緊の課題です。デジタル化が進む中で、出遅れることは、顧客の信頼も失いかねません。今どきデジタル決済もできないのと、お客さまに言われかねない時代です。また、ハガキを送ってくるのはあなたの会社くらいよと言われてしまいます。
 貴重な社員の時間を使用している時代ではありません。デジタル化で効率化できることは、徹底して進めましょう。

確実にコスト削減効果の上がるWEB活用すらできずに勝ち抜くことは困難だ

環境変化に対応して勝ち残る その③

 最近の採用難もあり、LPWAの導入は中堅規模の会社でも確実に進んでいます。しかし、LINEやSMSを活用したWEB明細の導入に対する決断ができない会社もあります。
 利益がまだあるから、社内の体制整備やシステム導入が遅れているという危機感や対応力がない状況では、企業としての将来が危惧されます。
 直売大手は、DXの取り組みを積極的に進めていますが、中小の一部ではいまだに手作業や外部委託で圧着ハガキを使用している会社も少なくありません。DXの活用は必須ですから、至急取り組みましょう。

ガス外粗利と平均使用量増加には長期的視野での計画を持って取り組もう

環境変化に対応して勝ち残る その

 ガス外粗利の増加と平均使用量の増量は、1年ですぐ成果を上げることは困難です。3~5年の時間をかけて、中期的に目標を設定して、商品や販促に計画的に取り組むことが必要なテーマです。ガス外粗利の目標設定をしている会社は大半の会社で機器販売高や粗利の個人目標はあっても、ガス増販目標がない会社が大半です。
 あなたの会社は、社員の方々にLPガスの増販目標を設定していますか?
 例えば、年間3tのガス増販目標を設定すると、灯油やエコキュートからの燃転を年間10件で、概算1.5~2tの増販、ガスFHを20台販売しても2t近い増販です。社員の方々にガス増販目標を設定して取り組むことが、未来を創ることです。
 LPガス化を徹底することが、未来を創ることで、前号で述べた「最も厚利で継続して購入していただける商品」という認識を持って取り組んでください。
 ガス料金の低減化を図るためにも、ガス化とガス使用量の増加を図らずに値下げすることは困難です。
 今回の連載は、バックオフィスDXを中心とした内容となりました。次号ではガス外粗利や平均使用量の増加策に触れます。
 この時代を乗り越えるお手伝いをしています。気軽にご相談ください。

浅見 博
本名 才津 博 北海道出身 血液型B型
(株)日本流通技術研究所にて昭和61年より、LPガス業界専門に経営戦略の企画、販売促進企画、ツール開発、経営計画ソフト等のソフト開発の責任者として勤務。その経験とノウハウを活かし、平成9年11月に有志と現在の会社「マーケティングデザインシステム株式会社」を創業。コンサルタントとしても、経営戦略企画、活性化指導、社員教育から講演活動まで幅広く活躍中。また同社では「繁盛指南」シリーズを発売し、大好評を得ている。