はじめに
今年も8月を迎え、お盆が過ぎるとすぐに年末が近づいてきてしまい、あっという間に一年が終わっていってしまうように感じます。今年は7月の初旬に梅雨が明け、早い夏が到来しそこからというもの、暑さに耐え忍びながら皆さん日々を過ごしています。
40代の私が学生時代には、学校の教室にエアコンはなく、下敷きをうちわ代わりにあおいでいました。下敷きであおいでいると先生からは当然怒られ、暑い中でも必死に授業を受けていたのを覚えていますが、今の時代の教室はエアコン完備が当たり前となり、さらには、先日とある高校でエアコンが壊れて効かないために休校となったほど、今ではエアコンがないと授業にもならなくなってしまったようです。
30年前と暑さの度合いが変わり、朝の早い時間から熱中症警戒アラートが発令されるほどの暑さとなってしまうような現在。年々暑さが増しているように感じるのは私だけでしょうか。
現場はこの暑さの中でも職人の方々が日々頑張ってくださっています。完全に室内で仕事をさせていただけるようなリフォームの内容ですと、職人の汗が垂れてお客さまのものを汚してしまうといけないからとエアコンをかけることをお願いして仕事ができていますが、躯体剥き出しとなるような内容の仕事ですとエアコンをかけて仕事するということはできなくなるため、職人の方々には厳しい環境で仕事をしていただかなければなりません。最近の現場は職人に仕事をお願いする身としても、そこが一番申し訳なくもあり、心配な点でもあります。
職人は頑張り屋な方が多く、1日でやろうとする仕事の内容が各々にあるため、それを終わらせるために休ま作業を続けてしまう人も中にはいます。エアコンがある環境でしたらそれもまだ良いですが、エアコンがない屋外の環境で休憩もなく仕事をやり続けてしまうとすぐに熱中症になってしまい、転倒することにつながったり、明日から仕事に出られないなどということになってしまったりします。仕事をお願いするこちらとしては工程を守ってほしい気持ちもありますが、転倒されても困るので、指示の仕方も大変難しい場面に立たされます。
今月号は、「介護が必要になった時に考えること」というテーマに着目して家のことを考えていきたいと思います。自分は若いからと考えていることもあるでしょうが、〝老い〟はどの人にも平等に訪れるものです。私もお客さまが年を取っていかれるのを目の当たりにして初めてわかることもありました。〝老い〟に対してどのように向き合っていけば良いのか、ここで少し考えていきましょう。
身近な老い
皆さんは身近な多くの場面で何かしらの〝老い〟を目の当たりにしたことはありますでしょうか。自分が最近目が見えなくなったと感じる、最近よくつまずくようになった、知り合いの人がすっかり年で弱ってしまったなど、皆さんを取り巻く多くの場面にはそうした〝老い〟にたくさん出合うことがあるのではないでしょうか。
以前こちらでも少し書かせていただきましたが、10年以上リフォームのお客さまとしてお付き合いしていただいている方が、お会いするたびに弱って年を取っていかれていることを目の当たりにしています。
そのお客さまからのこれまでのご依頼内容は、インテリアを素敵にしたい、心地よく生活ができるようにしたいなど、快適な暮らしを求めたご依頼が多かったのですが、今では少し年を取って、ご自身の体の不自由さをカバーするような内容のご依頼を頂くことが増えてきました。
例えば、そのお客さまは先日自動車の衝突事故を起こされ、車を買い替えるにあたり、自動車に自動駐車の機能が備わったものを購入するため、駐車場の線をはっきりとした黄色にしたいとか、夜中のトイレが頻発するようになり、1階にしかないトイレまでの行き来がつらいということで、エレベーターをつけたほうが良いのか、階段昇降機をつけたほうが良いのか、1階に寝室を移動させたほうが良いのかなど、多数の方法を考える場面についてご相談に乗ることがありました。
LDKのリフォームをやらせていただく際のご主人・奥さまとは長年を経て年齢も変わってしまい、昔のご夫妻を思い出すと懐かしくも感じますが、その年に合わせて家に対する考え方を変えていく、そこに相談役としてサポートできることがとてもうれしくもありますが寂しくもあり、これがリフォームの仕事に携わり、長年お客さまとお付き合いさせていただくことの宿命なのだと実感しながら相談に乗り、いろんな可能性を考えながら結論にたどり着きました。結局は1階の1室を、体を悪くされた奥さまの寝室・個室として作り替えをすることになり、先日工事に入らせていただきました。
その工事の際に一番お客さまが年を取られたと感じた場面というのが、工事に入るための準備の時です。工事に入らせていただくためには前日までに押し入れなどから荷物を抜いてほしいとお願いしていました。過去に10年以上もお付き合いさせていただいてきたお客さまなので、ある程度どれぐらいは片付けてくださる方なのかはわかっているつもりで、気軽な気持ちで工事前の前日チェックに伺いました。
その時の光景がこれまでの片付け方とはまったく違った様子であったこと、私が前日チェックに〇時に伺いますとお伝えしていたことをすっかり忘れてしまっていたことなど、これまでのお客さまの雰囲気とはまったく違ってしまっていました。翌日からは工事部隊も現場に入ってきますので、何とかここを片付けなければ工事に入れないので、そこからは私がリードをとらせていただいて現場として明け渡すための片づけ
をご主人、奥さま、私の3人で最後までやり切りました。
基本的に年配の方のリフォームは前日こちらがお片付けのためにお手伝いに行かせていただくことも多く、通常のことではあるのですが、そのお客さまはこれまでの片付け方とまったく内容が違っていたので、少し驚きました。「〇〇様も歳を取られたのだな」とこちらも理解して片付けに徹しました。
そうした場面を目の当たりにし、改めて、お客さまが介護を必要とされる時に家づくりとしてどのようなことが必要となるのかを考えるきっかけとなりました。
要介護者の家づくり
ここからは介護を必要とされる要介護者にとって暮らしやすい家というのはどのようなものか考えていきましょう。
家族には迷惑をかけてしまうでしょうが、年を取り、体が弱くなってもできる限り自宅で過ごしたいと考えるのは万人の願いなのではないでしょうか。
特別養護老人ホームなどさまざまな目的に合わせて高齢者施設は世の中でもたくさん作られています。お金を出すことができるのならば施設に入って快適に暮らすということも一つの選択肢なのかもしれませんが、私はできる限り最後まで家にいたいと思っていて、その時に子どもと同居をしていなければ、子どもたちにとっては心配をかけるだけの面倒な親です。かといって一緒に暮らしたとしても世話ばかり子どもたちにかけてしまうため、それはそれで面倒な親でしょう。しかしながら、自宅が好きなのです。
今、施設に入られている方の中にも入りたくなくても入らざるを得なかったという方もいらっしゃるでしょう。寝たきりになってしまったということでしたら、自宅での生活は大変かもしれませんが、私は要介護者になった場合でも自分のことをできることが多ければ家にいられる時も長くなるのではと、お客さまとは自宅でできる限り長い時間を過ごしていただけるようなお話や計画を立てるように心掛けています。
私としてもこうして家の仕事に携わらせていただく身としますと、お客さまには自宅で長い時を過ごしていただきたい、周りのご家族の手をかけることができるだけ少なくなれば、お互いの負担も少なくなる、そして自宅で皆さんがそろう期間が長くなる、そんなことを信じてお客さまとお話をし、工事の計画を立てています。
そういうときのお客さま・ご家族の「施設に入ればいいから」とか「家にいたほうが…」などのお話は胸にこみ上げるものがありますが、〝ご家族の皆さんがそろって長い時を過ごされる〟、これに勝る考え方はありません。そのために家としてできることは何なのか、いつもさまざまな観点から悩まされますが、ここでできることを精いっぱいやらせていただきたいと思っています。そこで一つご紹介します。
介護を必要とされる方は、狭いと感じる部分が生活するスペースの中にあるとそこに暮らしづらさを感じるものです。通常、通路やトイレは柱芯々910として作られることが多いのですが、そうした狭く採ってしまっている部分を広げてあげるだけでも、動きやすさや介助に入る方の幅をとることができます。
プランをさせていただくうえで、体に不自由を感じている方に向けて作る間取りはいたってシンプルです。①柱芯々910のスペースは作らない、②凸凹したクランクは作らない、③部屋数を減らしてでも1部屋の面積を広めにとる、この3点です。
例として一つの図面をご覧ください。玄関の広さをゆったりとりLDKに入ってからも基本的には遮りがない広い空間としています。ここでご覧いただきたいのは、最近の対面キッチンはキッチンに立つスペースがどうしても狭くなってしまいますが、体が不自由な場合、あの狭い空間は生活するうえで危険が多く発生してしまいます。壁付けキッチンにして部屋の空間としてのスペースを広く開放することで障害物が少なくなります。ポイントは「空間も物もゴチャゴチャさせない」です。

そして、リビングに隣接する個室・寝室があることで、体が不自由な方の生活が平面的な1フロアで解決できる様子がこの図面からも想像できるでしょう。
不自由な度合いもお一人お一人さまざまです。ただ、こうしたいたってシンプルなさっぱりした間取りにすることで、お一人でゆっくり一つひとつの作業を行う、もしくは介助される方が、介助するスペースに無理なくいることができるのではと、想像できる間取りだと感じていただけるのではないでしょうか。さらには浴室がもっと広く作れたら申し分ないのですが、それはお客さまとの話し合いで広くするかどうかということになるでしょう。
最近ではリフォームでも新築でもLDKに対面キッチンを望むお客さまが非常に多く、ほぼ100%に近いのではないのかと思いますが、介護を必要とされる方の間取りは流行とは真逆で、いかに広く無駄なスペースをなくして角張ったクランクをなくすかです。間取りを考えるということは、お客さまがどのような状況にあるかということを絶対見逃してはいけないと痛感します。
最後に
私事のお話ですが、最近リフォームだけでなく新築の設計の依頼を頂く際に感じることがあります。
これまでお客さまとして自分と長年お付き合いいただいてきた方というのは年代が近い、もしくは同じぐらいの年齢の方が多く、それ故に、家に感じている不満であったり、好きな色合いや柄粋だったりが比較的似ていることが多かったのかなと思ったりします。自分が30代半ばのころのお客さまとの打ち合わせはそうした好きなものや趣向もお客さまと近いものがあったため、お客さまがすべてを語ることができなくても、察することができたように思います。今現在、自分も40半ば過ぎとなり歳を取ってくると、施主さまの年代である30代前半の方とはひと回りも歳が違ってきてしまっていることに気づき、最近のお客さまの流行のカラーなどに少し疑問を持ったりすることも場面ごとに出てきていることに自分で気づいています。
例えば、外壁材のカラーはブラックが多い傾向であったり、室内の壁クロスをはじめとした建具や収納などの棚にグレーを希望されることが多いなど、自分が持っていた趣向とは違う感性を持たれているのだなと感じることが出てきて、〝お客さまと心を一つにしてセレクトする〟というよりは〝お客さまが決められたことを尊重する〟という傾向に自分の中でも変化していることに気づきます。
間取りやインテリアにはその時代の流行が必ず存在しますので、それを否定することは決してしませんが、心からの称賛をあげられなくなっている自分に気づき、最近では若い方のサポート役をやらせていただくようにしたほうが良いのではと思うようになっています。
例えば、若い方がお客さまとの打ち合わせに出て必要な内容を決定してくる、それを私のような人間は裏でサポートするような形で、納まりとしてどうしたら望まれていることを実現できるか、申請が必要なことや申請を行うために打ち合わせ担当に必要な情報を与えて打ち合わせをさせる、担当がお客さまとの打ち合わせに行き詰まってきたときの相談役など、そうした方向に自分自身も徹していく時期が近づいてきているのではと思って最近では仕事をしています。「適在適所」。この言葉が頭の片隅に出始めた今日この頃です。
山岡 裕子
ヤマオカプランニングオフィス代表/リフォームプランナー
エンドユーザーのリフォーム物件を手掛けながら、企業へのリフォーム事業のアドバイザーも行う。建築士、インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザー1級